Alsebay/JP-novel-selected-dataset · Datasets at Hugging Face

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「どうだった？　式場の方は全てＯＫなの？」
「だ、大丈夫よ。ちゃんと話してきたから」
「そう。それなら良かったわ。夕食の用意をするから手伝ってくれない？」
「あ……うん」
「今日は智一の好きなハンバーグを作ろうと思って。そう言えば智一、どこかに行ったのかしら？」
「さ、さあ……」
「またどこかで遊んでいるのかしらねぇ……」

そう言うと、母親は部屋を出て行った。

「はぁ～……あ、危なかった……」

額からドッと汗が噴出す。母親は智一の事を政代だと思い、疑う様子はなかった。

「助かったなあ。どうなるかと思ったよ。でもこれからどうしようか。ずっと姉貴の姿でいるわけにも行かないし……姉貴が帰ってきたらやばいよな」

政代が帰ってくるまでに、この全身タイツを脱がなければならない。

「どうしようか……母さん驚くだろうな。姉貴が帰ってきたら、姉貴が二人いるんだもんなぁ。姉貴だってきっと。……やっぱり脱がないと」

智一は政代の下着を脱いだ後、元通りタンスの引き出しに直して自分の部屋へと戻った。姿見に付いていた口紅もしっかりと落として。

「母さんが姉貴を待ってるんだ。でも姉貴の格好で母さんの手伝いをするわけに行かないからな。う～ん、どうしよう……」

全身タイツを着たまま、頭の中で色々と考えた。
そして、その結果――。

「よし、こうなったら……」

智一は政代の姿のまま自分の服を着始めた。お尻がきついトランクスを穿き、黄色いＴシャツにゆったりとした薄茶色のイージーパンツを穿きこむ。
姉貴にはちょっと似合わない服かもしれないが、とりあえずこの服装で一階まで下りて行った。廊下の向こうのキッチンでは、母親が大根か何かを包丁で切っている音がする。
玄関に座り、ぶかぶかでサイズの合わない自分の靴を穿いた智一は、「お母さ～ん。私、ちょっとだけ出かけてくるね～」と、キッチンに向かって叫んだ後、急いで扉を開けて外に出た。

「政代っ？」

扉の向こうで母親の声が聞こえたような気がした。しかし、智一は靴が脱げそうになりながらも、必死に公園まで走ったのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

政代の声で息を弾ませる。顔に汗をかいたせいで、長い髪が額や頬に張り付いてくる。それを指で払いながらベンチに座り、大きく息を吸って呼吸を整えた。たかが二百メートル程走っただけなのに、やたらに息が上がっている。

「はぁ……俺ってこんなに体力なかったっけ。もしかしたら、このタイツを着ていると姉貴の体力になるのかもしれないな」

キョロキョロとあたりを見渡し、誰もいない事を確認する。そのあと、ベンチから立ち上がると、そばにあった公衆トイレの男性側の個室に入った。

「この状態でマスクを取れば……出来るのかな」

智一は顎の下あたりを掴むと、ゆっくりと上に引き上げ始めた。
すると、首元のところに境目が出来始め、マスクの部分だけが剥がれ始める。

「お、やっぱり出来るんだ。このままこうやって……」

政代のマスクを前に引っ張って顔から剥がすと、智一の頭が現れた。しわくちゃになった政代のマスクが、首の後ろにぶら下っている。髪の毛はお尻まで垂れ下がっているようだ。

「よしよし。折角だからこの状態で……」

本当は全部脱いで帰るつもりだったのだが、智一は政代の身体を着たまま帰ることにした。
Ｔシャツの背中に政代の萎れたマスクを入れ、Ｔシャツの裾から見えている黒い髪をイージーパンツの中にしまいこむ。背中のところが少し盛り上がっているが、それほど気にならない。
それより、智一の顔でＴシャツの生地を持ち上げる二つの胸の方がよっぽど違和感があった。

「他人に見られないように胸を隠しながら走って帰ればいいだけだし。身体だけ姉貴ってのも何だかすごくいやらしいよな」

トイレから出ると、周りは少し暗くなりかけていた。智一は周りの目を気にしながら両腕で胸を隠し、走って家に帰った。腕で押えている胸が上下に揺れる。しかも、ブラジャーを付けていないので胸の突起が擦れて妙に気持ちがいい。行きは焦っていたのでそれほど感じなかったが、帰りは心にも余裕があるので、変に意識してしまう。

「はぁ、はぁ。あ、あまり早く走ると……Ｔシャツに擦れて……」

胸の突起が硬く尖ってきたのが分かる。それでも智一は、目の前に見えている家まで全速力で走った。

「はあっ……はあっ、はあっ、はぁ。何とか家に着いたぞ」

誰に怪しまれたわけでもない智一が玄関の扉を開ける。

「ただいま」
「何処に行ってたの？」

キッチンから母親の声がしたが、急いで階段を駆け上り、「ちょっと連れのところに行ってただけさ」と二階から叫んだ。
自分の部屋のドアを開け、ふぅと息をつく。

「はぁ、はぁ、はぁ～。ふぅ～。疲れたなぁ。母さんに見つかったせいでえらく大変だった」

ベッドの上に座り込んだ智一の胸元に汗が滲んでいる。
とりあえずＴシャツやイージーパンツ、トランクスを脱いで、政代の身体になっている全身タイツも脱いだ。
これで元の智一の姿へと戻ったことになる。
目的を果たした智一は、政代の部屋から化粧箱に入っていたクレンジングジェルを持ってくると、化粧が滲んでしまった政代のマスクを綺麗に拭いた。
しわくちゃだが、素顔の政代の顔が現れる。

「これからはずっと姉貴と一緒だよ」

そう呟いた智一。本当の政代への愛情はかなり薄れていた――。


――結婚式当日。
政代は新婦と共に幸せそうな笑顔をしていた。智一も着たウェディングドレスに身を包んで。

「姉貴、お幸せに。俺も姉貴と幸せになるから」

誰にも気づかれない小さな声で呟いた智一。無事結婚式を終えて家に帰ると、片付けを終えた政代の部屋に入った。この部屋は智一が自由に使ってもいい事になっている。洋服や小物は新居に持って行ったが、不要なタンスやベッドなどは置いてある。
そして、ベッドの下にあるダンボール箱の中には、政代が結婚する前に拝借していた下着と、女子高時代に使っていた白い体操服に青いブルマが入っていた。
親のいない時間――。
智一はあの全身タイツを使って政代に成りすますと、ダンボール箱の中からそれらを取り出し、着込んで遊んだ。

「どうだった？　式場の方は全てＯＫなの？」

「だ、大丈夫よ。ちゃんと話してきたから」

「そう。それなら良かったわ。夕食の用意をするから手伝ってくれない？」

「あ……うん」

「今日は智一の好きなハンバーグを作ろうと思って。そう言えば智一、どこかに行ったのかしら？」

「さ、さあ……」

「またどこかで遊んでいるのかしらねぇ……」

　そう言うと、母親は部屋を出て行った。

「はぁ～……あ、危なかった……」

　額からドッと汗が噴出す。母親は智一の事を政代だと思い、疑う様子はなかった。

「助かったなあ。どうなるかと思ったよ。でもこれからどうしようか。ずっと姉貴の姿でいるわけにも行かないし……姉貴が帰ってきたらやばいよな」

　政代が帰ってくるまでに、この全身タイツを脱がなければならない。

「どうしようか……母さん驚くだろうな。姉貴が帰ってきたら、姉貴が二人いるんだもんなぁ。姉貴だってきっと。……やっぱり脱がないと」

　智一は政代の下着を脱いだ後、元通りタンスの引き出しに直して自分の部屋へと戻った。姿見に付いていた口紅もしっかりと落として。

「母さんが姉貴を待ってるんだ。でも姉貴の格好で母さんの手伝いをするわけに行かないからな。う～ん、どうしよう……」

　全身タイツを着たまま、頭の中で色々と考えた。

　そして、その結果――。

「よし、こうなったら……」

　智一は政代の姿のまま自分の服を着始めた。お尻がきついトランクスを穿き、黄色いＴシャツにゆったりとした薄茶色のイージーパンツを穿きこむ。

　姉貴にはちょっと似合わない服かもしれないが、とりあえずこの服装で一階まで下りて行った。廊下の向こうのキッチンでは、母親が大根か何かを包丁で切っている音がする。

　玄関に座り、ぶかぶかでサイズの合わない自分の靴を穿いた智一は、「お母さ～ん。私、ちょっとだけ出かけてくるね～」と、キッチンに向かって叫んだ後、急いで扉を開けて外に出た。

「政代っ？」

　扉の向こうで母親の声が聞こえたような気がした。しかし、智一は靴が脱げそうになりながらも、必死に公園まで走ったのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

　政代の声で息を弾ませる。顔に汗をかいたせいで、長い髪が額や頬に張り付いてくる。それを指で払いながらベンチに座り、大きく息を吸って呼吸を整えた。たかが二百メートル程走っただけなのに、やたらに息が上がっている。

「はぁ……俺ってこんなに体力なかったっけ。もしかしたら、このタイツを着ていると姉貴の体力になるのかもしれないな」

　キョロキョロとあたりを見渡し、誰もいない事を確認する。そのあと、ベンチから立ち上がると、そばにあった公衆トイレの男性側の個室に入った。

「この状態でマスクを取れば……出来るのかな」

　智一は顎の下あたりを掴むと、ゆっくりと上に引き上げ始めた。

　すると、首元のところに境目が出来始め、マスクの部分だけが剥がれ始める。

「お、やっぱり出来るんだ。このままこうやって……」

　政代のマスクを前に引っ張って顔から剥がすと、智一の頭が現れた。しわくちゃになった政代のマスクが、首の後ろにぶら下っている。髪の毛はお尻まで垂れ下がっているようだ。

「よしよし。折角だからこの状態で……」

　本当は全部脱いで帰るつもりだったのだが、智一は政代の身体を着たまま帰ることにした。

　Ｔシャツの背中に政代の萎れたマスクを入れ、Ｔシャツの裾から見えている黒い髪をイージーパンツの中にしまいこむ。背中のところが少し盛り上がっているが、それほど気にならない。

　それより、智一の顔でＴシャツの生地を持ち上げる二つの胸の方がよっぽど違和感があった。

「他人に見られないように胸を隠しながら走って帰ればいいだけだし。身体だけ姉貴ってのも何だかすごくいやらしいよな」

　トイレから出ると、周りは少し暗くなりかけていた。智一は周りの目を気にしながら両腕で胸を隠し、走って家に帰った。腕で押えている胸が上下に揺れる。しかも、ブラジャーを付けていないので胸の突起が擦れて妙に気持ちがいい。行きは焦っていたのでそれほど感じなかったが、帰りは心にも余裕があるので、変に意識してしまう。

「はぁ、はぁ。あ、あまり早く走ると……Ｔシャツに擦れて……」

　胸の突起が硬く尖ってきたのが分かる。それでも智一は、目の前に見えている家まで全速力で走った。

「はあっ……はあっ、はあっ、はぁ。何とか家に着いたぞ」

　誰に怪しまれたわけでもない智一が玄関の扉を開ける。

「ただいま」

「何処に行ってたの？」

　キッチンから母親の声がしたが、急いで階段を駆け上り、「ちょっと連れのところに行ってただけさ」と二階から叫んだ。

　自分の部屋のドアを開け、ふぅと息をつく。

「はぁ、はぁ、はぁ～。ふぅ～。疲れたなぁ。母さんに見つかったせいでえらく大変だった」

　ベッドの上に座り込んだ智一の胸元に汗が滲んでいる。

　とりあえずＴシャツやイージーパンツ、トランクスを脱いで、政代の身体になっている全身タイツも脱いだ。

　これで元の智一の姿へと戻ったことになる。

　目的を果たした智一は、政代の部屋から化粧箱に入っていたクレンジングジェルを持ってくると、化粧が滲んでしまった政代のマスクを綺麗に拭いた。

　しわくちゃだが、素顔の政代の顔が現れる。

「これからはずっと姉貴と一緒だよ」

　そう呟いた智一。本当の政代への愛情はかなり薄れていた――。

　――結婚式当日。

　政代は新婦と共に幸せそうな笑顔をしていた。智一も着たウェディングドレスに身を包んで。

「姉貴、お幸せに。俺も姉貴と幸せになるから」

　誰にも気づかれない小さな声で呟いた智一。無事結婚式を終えて家に帰ると、片付けを終えた政代の部屋に入った。この部屋は智一が自由に使ってもいい事になっている。洋服や小物は新居に持って行ったが、不要なタンスやベッドなどは置いてある。

そして、ベッドの下にあるダンボール箱の中には、政代が結婚する前に拝借していた下着と、女子高時代に使っていた白い体操服に青いブルマが入っていた。

　親のいない時間――。

　智一はあの全身タイツを使って政代に成りすますと、ダンボール箱の中からそれらを取り出し、着込んで遊んだ。